技術情報
DMX512
DMX512とは、照明の調光やムービングライト等のコントロールに使用するデジタルコントロール信号の規格です。(要するに照明用のデジタル信号規格です。)
デジタル信号による照明制御が行なわれていない時代、照明のコントロール(主に調光)にはアナログ信号が用いられてきました。
アナログ信号とは、一般的には、DC 0-10Vという電圧の変動を利用するコントロール方式です。
例えば、ある照明器具の明るさを50%にしたい場合、その照明器具が繋がる調光器に対し、DC 5Vのアナログ信号を送ることで、調光器の出力電圧を50Vに変動させ、そこに繋がる照明器具の明るさを50%にすることができます。
基本的に、アナログ信号は1対1の接続となります。個別にコントロールしたい照明が100台あった場合、それに必要なコントロールチャンネル数(回路数)は100チャンネルとなり、そのために必要な信号ケーブルも100組必要となります。
演出照明が進化し、バリライトを代表とするムービングライトが誕生してくると、1台の照明器具でいくつものコントロールチャンネルが必要となってきたため、従来のアナログ信号では対応しきれない状況となりました。そこで採用されたのがデジタル信号です。
アメリカの米国劇場技術協会(USITT)が1986年から開発を始め、1990年に規格化されたのが "DMX512" というデジタル信号規格です。それから改良がなされ、現在、一般的に使用されているDMX512信号は、正式には "DMX512-A" と呼ばれるものになり、現在では、DMX512信号による照明コントロールが世界共通の最も一般的な方法となっています。
【アナログ信号とDMX512信号との違い】
コントロール可能なチャンネル数
とても少ない信号ケーブルの数でたくさんの照明のコントロールが可能、そして、より細かいコントロールが可能であることが、現在、DMX512信号が一般的に使用されている理由です。
また、例えば、複数のムービングライトをコントロールする場合、照明操作卓からの信号ケーブルを1台目のムービングライトに接続した後、そこから2台目のムービングライトへ渡り配線することでコントロールできる、ディジーチェインによる配線が可能なため、信号ケーブルの本数も長さも最低限に抑えることができるのもDMX512方式のメリットです。
そして、DMX512信号はDATA+、グランド、DATA-の3極で構成され、グランドを基準にDATA+とDATA-の各々に同時に電位差が生じた時を "1" とし、電位差がない時を "0" としています。したがって、ノイズによってDATA+側もしくはDATA-側の何れかだけに電位差が生じた場合にはデータとしては認識されない仕組みになっているため、比較的ノイズに強い信号規格だと言えます。
DMX512信号は規格・仕組みが単純な構成であり、イーサネットなどの他のデジタル信号と比較した場合、割と手荒い扱いをしてもトラブルが発生しにくいというメリットも持ち合わせています。
DMX512信号の一般的な使用方法としては、下記のような使用方法となります。
- DMX512信号が出力可能な操作卓とDMX512信号で動作する照明器具や調光器を専用信号ケーブルで接続する。
- 照明器具や調光器側で、受信したいDMX512信号の番地(アドレス)を指定する。
- 操作卓を操作し、それぞれの機器をコントロールする。
ここで少し解説をしておくと、デジタル信号であるDMX512信号はアナログ信号と異なり、受信する機器側で受信したい任意の番地を設定できるため、仮に、10台の機器があった場合、すべてを同じにコントロールしたい場合は、すべての機器の番地を同じに設定すればよく、また、5台を同じ番地に設定し、残りの5台をそれぞれ別々の番地に設定すれば、5台は同じアクションをし、他の5台はそれぞれまったく別のアクションを行なうようにすることができます。
最後に、DMX512信号を使用する際の信号ケーブルについて説明をしておきます。
DMX512信号の伝送に使用する信号ケーブルはツイストペア×2組にシールドが付加されたケーブルとなります。
ケーブルの規格自体はありませんが、マイクケーブルなどの類似ケーブルはインピーダンスやキャパシタンスがDMX512信号には適さないため、使用には適しません。
現状では、CANARE社からDMX専用ケーブルが販売されていますので、そちらの使用をお薦め致します。
また、DMX512信号ケーブルに於けるプラグやコネクタは、正規の規格では5ピンのXLRの使用が義務付けられています。
しかし、実際には、5ピンの内、シールドを含めて3ピンしか使用していないこともあり、3ピンのXLRを使用するケースも多くあります。ピンアサインは下記の通りとなります。